今回紹介する演目は、2007年NHKの朝ドラのタイトルにもなった「ちりとてちん」。
上方落語では「ちりとてちん」、東京落語では「ちりとてちん」と「酢豆腐」のいずれかで演じられています。
元々は江戸中期の原話であり、明治以降話に手が加えられ「ちりとてちん」で上方でも演じられるようになりました。
その後、再度東京でも高座にかけられるようになり、馴染みある噺になっています。
「ちりとてちん」と「酢豆腐」は登場人物とオチが違います。
東京でも「ちりとてちん」パターンで演じられることが多いです。
落語「ちりとてちん」の見どころ、聞きどころ
何でも知ったかぶりをして、周囲から不評をかっている竹さんがとんでもない羽目にあってしまう滑稽な噺です。
あらゆる美味いものは食べ尽くした、飽きたと豪語する竹さん。
この食通を気取るイヤな人物を一度困らせてやろうと、横丁の旦那と近所の喜いさんとで計画がまとまります。
水屋に置き忘れ腐ってしまった豆腐、これを珍味として食べさせようと悪い相談がまとまります。
腐ってしまった豆腐を食べさせられる様子は、演じる噺家の技量の見せどころ、聞かせどころです。
聴いているお客さんは、この様子をおもしろおかしく楽しめます。
落語「ちりとてちん」のあらすじ
上方でも落語家それぞれに微妙に違った味の噺に仕上がっています。
聞き比べるのもいいでしょうね。
桂南光さん、桂文三さんを聞いてみました。
それぞれに、お二人の個性が出た楽しい落語でしたよ。
桂南光さんの噺からのあらすじです。
登場人物
登場人物は横町の旦那、旦那と親しい「喜い」さん、旦那の家の裏に住んでる「竹さん」。
旦さん、おじゃまします!
おぉ~!喜いさん。よぉ来てくれました。さぁさぁ、こっち上がっておくれ。
今日はな、わしの誕生日でな祝うほどの歳ではないが、昼間から一杯やろうと思うてな。
お酒というのは一人では頼んないでな。聞けばあんたは今日仕事休みやいうことなんで、相手してもらおうと思うて呼びにやったんや。
何をおっしゃいますのや旦さん、よぉ呼んでいただきました。
私がお相手さていただきます。
ところで何ですなぁ~、お誕生日ということ、お歳のほうはお幾つでございますか?
えっ、五十六?お若いですなぁ~、見えませんなぁ~。どう見ても五十五に見えますがな!
もう~、おかしなベンチャラ言いなはんな! ちっとも嬉しいことおまへんがな!
もう、気ぃ使わんとやっとくなはれ。
なんもないがな、家に有り合わせのもんで並べたるだけや。
あっ、酒だけはちょっとえぇのが手に入りましたんや。京都の知り合いが送ってくれた「白菊」という酒やが、あんたこれ知ってなはるか?
なんでございます?「白菊」が手に入りましたか?こらねぇっ、名酒でございまっせ!
昔、京都に住んではった華族さんだけが呑んではったお酒でございまして。
今はまぁ、我々でもいただきますが、数が少ないさかいに好きな人の間では「幻の酒」と言われています。
あぁ、そぉかいな。そないえぇお酒とは知らなんだが。
ほなまぁまぁ、一杯やっとくれ。
こんな調子で「幻の酒」などと誉めながら、ぐびぐびと呑み始めます。
鯛の刺身を初めて食べるなどと言いながら、醤油、わさびまで誉めちぎる調子の良さ。
続いてでてきた茶碗蒸し、その具材と出汁まで誉めながら食べていきます。
そこへ鰻屋へ注文していた「鰻のかば焼き」が届きます。
ごはんに乗せて食べたら、と旦那に勧められます。
遠慮することないがなぁ~、食べて帰り!
ご飯?初めてでございます!旦さん!
そんなアホこと、ご飯が初めてなんて人があるかいな。
いやぁ~、あんたは嬉しい人や。何を出してもそうして美味しい美味しいと食べてくれる。あんたがそないして喜んでくれたら、こっちも嬉しい。そうや、これが人の付き合いやなぁ~
あんたに比べたら、この裏に住んでる竹ちゅう男がおるやろ、あの男は憎たらしい男やで~。あんたみたいにな「旨い」「美味しい」って言うたことない!
その割に竹さん、よく旦那の家に来るらしい。
それも旦那が食べているお昼時を見計らって来る。
今、何時ごろだっしゃろ?
今、お昼やがな。わしも今食べてんねんけど。おまはんも食べるか?
いやぁ~、腹減ってまへんけど食べてあげまひょか?
こんな調子でいつも憎まれ口をたたく。
あいかわらず悪い米食てまんなぁ~。
さんざん文句を言いながら5杯は食べていく。
珍しいものを出しても
これっ、前に食べましたわ~、知ってます!
たいしたことおまへん、しょうもない!
と、口癖でこんな調子。
知らないくせに、知ったかぶりする竹さんに腹を立てている旦那さん。
いつかはギャフンと言わせてやりたい、と思っています。
そんな時、台所の方でバタバタと騒々しい。
水屋から腐った豆腐が出てきたそうで。
旦那さんが食べかけの冷ややっこを置き忘れてしまったらしい。
白い豆腐が黄色くなって、赤カビや緑色になったカビが生えています。
えらいニオイがしています。
豆腐の腐ったやつ、初めてでございます。
あんた食べる気かいな?
なんぼ物喜びするあんたでも、こりゃちょっと食えんで!
世の中には、こんなもんが「しゃれてる」て言うて食べるおかしな人がおる⁈
喜いさん、わし今ちょっと面白いこと思いついたんやがな。
旦さん、だいたいわかりますでございます!
わかるかえ?
二人の悪い相談がまとまります。
腐った豆腐をつぶしてわからないようにして、醤油を少し足し、毒消しにわさびと潰した梅干しを入れごまかします。
さて、二人は名前をつけて珍味に仕立てあげます。
珍味の名前を思案しているところに、三味線の音が聞こえてきます。
「チントンシャン、チントンシャン、チリトテチン、チリトテチン」
竹さんが行ってきたと見栄をはった長崎と、三味の音のチリトテチンから、「長崎名物チリトテチン」と名付けます。
さっそく訪ねてきた竹さんに食べさせる計画が始まります。
旦さんお邪魔します。
お酒?喜いさんも来て呑んでまんの?ただの酒、よぉ呑みまんな~
いやぁ私ね、もぉお酒も食べもんも口が肥えてまっさかい、しょうもないもんやったらいただきまへんで!
いつものようにこんな調子で知ったかぶりと見栄っ張りが始まります。
ビックリするような珍味はないのか、と言い放つ竹さん。
頃合いを見計らって「ちりとてちん」を食べさせようと、実行に移します。
ちょっと変わった名前やがな「長崎名産、ちりとてちん」ちゅうんやけど、知ってるかぇ?
知ってまんがな!「長崎名産、ちりとてちん」でっしゃろ。長崎で食べてましたがな。
ちょっと待って、見てもらお!こっち持っといで!
こんな調子で「ちりとてちん」を食べる羽目になってしまいます。
噺家により演じかたは違います。
それでも、七転八倒しながら腐った豆腐を食べる様子は、聞いているお客さんも腹を抱えて笑ってしまいます。
噺のオチです
わしら食べたことないけど、どんな味や?
ちょうど豆腐の腐ったような味ですわ!