落語「大工調べ」江戸時代の花形職人・大工の棟梁は威勢がいい

町人が活躍する噺

落語「大工調べ」は初心者にもわかりやすい噺です。

 

江戸時代は火災が多く発生したようです。
消火活動も延焼を防ぐ方法しかなく、そのため多くの建物が壊されていました。
建物の再建は急務となり、大工の出番は多くなり腕の良い職人は大事にされていたでしょうね。

 

この噺に登場する腕の良い大工職人は、少し間の抜けたおなじみの与太郎です。
この与太郎の面倒を見ているのが、気っ風のいい大工の棟梁・政五郎。

 

誇り高い大工の棟梁・政五郎と、与太郎が住む長屋の少し頑固な大家との、言葉の行き違いによる騒動が奉行所にまで持ち込まれてしまいます。

 

「大工調べ」の聞きどころ

この噺の一番の聞きどころは、棟梁・政五郎が大家に対して威勢のいい啖呵を切るシーンです。
まさに立て板に水、まくしたてる啖呵は噺家の聴かせどころでもあります。
棟梁にうながされ、与太郎も真似をしようとしますが、しどろもどろで笑いを誘います。

 

「大工調べ」のあらすじ

家賃を溜めてしまった与太郎の大工道具がその抵当に取られてしまいます

腕は良いのですが少し抜けている大工職人・与太郎が、ここ数日仕事に出てきません。心配した
棟梁・政五郎が長屋の与太郎を訪ねます。

 

家賃を1両2分と800溜めてしまい、大家・源六に大工道具を抵当として持っていかれた、とのこと。
棟梁は懐にあった1両2分を与太郎に渡し、「大家のところへ行って、道具箱を返してもらってこい!」と言います。

 

大家に事情を話せば道具箱を返してくれるはずだが・・・・・

800文足りないと言う与太郎に、「1両2分あれば御の字だ!」、「800ぽっち足りないのはあたぼうだ!」などと教えてしまいます。

 

与太郎は返してもらおうと大家宅を訪ね、その通りしゃべってしまいます。
怒ってしまった大家は、道具箱を返さず1両を取り上げてしまいます。

 

棟梁・政五郎は与太郎を連れて大家宅へ謝罪に行きますが・・・・・

棟梁は事情を話し、道具箱を返してくれるよう頭を何度も下げます。
足りない800文を払えば道具箱を渡すと言う大家に、「たかが800」、「800ぐらい」などと、つい口走ってしまいます。

 

これを聞いた大家も意固地になってしまいます

意地になった大家は、800文なければ返さないと突っぱねます。
話し合いはまとまりません。
願いを聞き入れてもらえない政五郎が、とうとう切れてしまいます。

 

尻をまくって威勢のいい啖呵を切る政五郎

「やい!大家さんとかなんとか言ってりゃつけあがりやがって、・・・・・」と、立て板に水のような棟梁の啖呵が始まります。
これが江戸っ子の啖呵、とばかりに大家へ毒づきます。

 

「おまえも言ってやれ!」と与太郎を促します。あまりの勢いに与太郎は、言い間違えたり、口がまわらず、しどろもどろになってしまいます。

 

棟梁・政五郎は決着をつけるため奉行所へ訴えます

老母を養っている与太郎が仕事に行けず、手間賃が入らないと困ってしまうと、奉行所へ訴え出ます。
「老母を養いがたし」と訴状を提出されると、奉行所としても放置できません。

 

奉行は800文の支払いを命じますが・・・・・

裁定の場で、奉行は即刻不足分の家賃を払うよう命じます。

 

喜んだ大家に対し奉行は「ところで、質株を持っているか?」、「質株を持たずに道具箱を抵当にとるのはご法度」と、違法に道具箱を預かった20日間の大工の手間賃を与太郎に払うよう命じます。
奉行が棟梁・政五郎に大工の手間賃を確認します。
日に1分、20日分で5両になります。

 

帰ろうとする棟梁・政五郎を呼び止め奉行は・・・・・

奉行:「1両2分800のところ、5両とは、ちと儲かったな、さすが大工は棟梁(細工はりゅうりゅう)」
棟梁・政五郎:「へえ、調べ(仕上げ)をごろうじろ(ご覧じろ)」

 

ちょっと雑学

落語界初の人間国宝となった5代目柳家小さんは、大工調べを得意としていました。
5代目古今亭志ん生、息子の古今亭志ん朝も得意ネタでした。
それぞれに工夫と個性を発揮していました。

 

与太郎が溜めた家賃は、1両2分と800文です。
1両800とする噺家さんもいます。

 

江戸時代の貨幣制度は、金、銀、銅の3種類からなっており、「三貨制度」と呼ばれます。
金貨は、大判、小判、1分金でした。
銀貨は、庁銀、豆板銀が作られました。
三代将軍・家光の時代となると、1文銭などの銅貨の鋳造が始まっています。

 

1両は1分金4枚で、1両2分は1分金が6枚となります。
800とは800文のこと。
なんだかややこしいですね。
銀行のルーツになる両替商なる専業プロが、誕生することになりました。