今回は前座噺の代表演目「道灌(どうかん)」を紹介します。
登場人物はおなじみの八五郎、横丁のご隠居、そして八五郎の友人。
若い頃の太田道灌は武芸に夢中であり、和歌の道には疎かったとか。
その道灌が歌道に励み、その後立派な歌人になった逸話を題材にした古典落語です。
落語の基本が詰まっている噺で、入門して間がない最初の頃習う滑稽噺です。
落語「道灌」の聞きどころ
八五郎とご隠居さんとの軽妙なやりとりがテンポよく語られます。
駄洒落が心地よく耳に入ってきます。
登場人物が少なく短い時間で聞けるので、落語に馴染みのない初心者でもわかりやすい構成になっています。
とはいえ、この演目を得意とした大物噺家もいるほどの滑稽噺です。
ベテラン落語家の手にかかると、持ち前のギャグを織り込んだり、演出に工夫を加え噺を長くしたり短くしたりします。
落語「道灌」のあらすじ
八五郎がいつものように隠居さん宅へ!
横丁の隠居は、口は悪いがどこか愛嬌のある八五郎とは気が合うようで、少々乱暴な物言いでも許してしまいます。
八五郎の方も暇ができると隠居宅を訪ね、気軽に会話を楽しみながら多くのことを教えてもらっているようです。
はり混ぜの屏風絵が八五郎の目に留まります
はり混ぜの屏風絵とは、絵や短冊を組み合わせて屏風に貼り付けたものです。
八五郎は、鷹狩にきていた太田道灌と貧しい村娘を描いたはり混ぜの屏風絵に気づきます。
「椎茸が煽り食らったような帽子かぶってね、虎の皮の股引きはいて弓もって偉そうにふんぞり返って偉そうにしている侍とね、洗い髪の女が盆の上に黄色いもの乗っけている、これなんですか?」
物知りの隠居は、初五郎に絵の由来を説明して聞かせます!
「どんな絵の見方をしてるんだよ!」
「これはね椎茸の帽子ではなく騎射笠、はいているのは虎の皮の股引きではなく行縢(むかばき)、まあ狩りの時の衣装だな!」
「女の人がお盆の上に乗せているのは山吹の枝」
「これは、武将の頃の太田道灌が狩りの帰りに急な雨に降られ、雨具を借りるため貧しい一軒家に飛び込んだ時の場面だ!」
ご隠居の説明は続きます
娘は蓑がない事をはずかしく思い、黙って山吹の枝を差し出します。
太田道灌は意味が分からず困惑してしまいます。
家来が畏れながら、
「これは『七重八重 花は咲けども山吹の 実のひとつだに なきぞ悲しき』という古の歌に託したものと思われます。
『実の』と『蓑』を掛けた断りでしょう」と教えます。
太田道灌は自らを「余は歌道に暗い」と知識不足を恥じ、その後和歌に精進し大歌人になった、という解説です。
八五郎はこの歌を気に入ってしまいました
話しを聞いた八五郎は、傘を貸してもいつも返さない友達を思い浮かべます。
断りの道具に使おうと思いつき、ご隠居に頼んで紙に書いてもらいます。
「雨具借りに来るのが道灌でしょう?」
「うちにも道灌がくるんですよ!」
八五郎は教えてもらったことを実行しますが・・・
ご隠居宅を出ると雨が降ってきました。
家に帰ると、タイミングよく友達が飛び込んできます。
友達を道灌に仕立てます。
「ちょいと借り物があるんだ!」
「借り物?さっそく来たな、道灌!」
「おめえが借りたいものは? 傘を借りにきたんだろう!」
「いや、合羽着てるから雨具いらねえ。提灯を貸してくれ!」
「これから用を足しに行くんだが、暗くなると困るんだ!」
八五郎は仕方なく、
「提灯も貸すから、傘を貸してくれって言え!」
友達は、
「言えばいいんだな、じゃあ傘貸してください!」
八五郎は娘が伝えたかった歌を聞かせようとしますが
ご隠居に書いてもらった紙を読もうとしますが、しどろもどろ。
まったく意味が伝わりません。
「なんだそれ!字余りの都々逸か?」
「これを都々逸ってえところをみると、お前はよっぽど歌道に暗いな!」
「ああ、角(歌道)が暗えから提灯借りに来た!」