落語「井戸の茶碗」に登場する人物は、みんな善人で正直なキャラクターの持ち主。
中でも正直者のくず屋・清兵衛さんの奮闘ぶりが、周囲の人を幸せにする落語らしい人情噺です。
バカがつくほどの正直清兵衛、清貧に負けない精神を持つ浪人千代田卜斎、江戸細川家屋敷に勤める藩士の高木佐太夫の三人が登場します。
善人の意地の張り合いが、すがすがしさを感じ感動すらおぼえます。
「ほっこり」と心が温まります。
「井戸の茶碗」のあらすじと聞きどころ
清兵衛さんの職業はくず屋さんです。
江戸時代、紙はたいへん貴重な物でした。
古紙から再生紙を作ることを、「漉き返し」と呼んでいました。
清兵衛さんは、古道具を扱えば儲かるとは知っています。
でも、他人に損をさせることがあるので、紙くずしか扱わない正直一辺倒な人物です。
清兵衛がある裏長屋に入っていくと
ある日、裏長屋へ入ると身なりが粗末な十八歳ぐらいの娘に呼びとめられます。
家に入ると、娘の父親で千代田卜斎と名乗る浪人が待っていました。
紙くずを買い取った後、古くから伝わるすすけた仏像の買取りも頼まれます。
本当なら紙くず以外は買い取らない、と言いながら200文で買い取ります。
人品卑しからぬ浪人親子に同情したのでしょうか、「儲けがあれば、半分はもってくる」と約束を交わし引き取ってしまいました。
くず屋の清兵衛と実直な人柄の浪人・卜斎とのやりとりの場面は、おだやかな雰囲気が伝わってきます。
細川様の屋敷前を通りかかると
この仏像をかごに入れたまま、細川様の屋敷あたりを流し営業していると、屋敷内の勤番侍が仏像を気に入り買い求めます。
その名を高木佐太夫といい、まだ二十三か四の独り身の小者と二人暮らし。
すすけた仏像を磨いていると、中で音がするので腹籠りの仏像と思い開けてみます。
何と小判50両がでてきました。
正直者の佐太夫は50両を仏像の売主に返そうと考え、訪れたくず屋を探そうとします。
やっとのことでくず屋の清兵衛を見つけ、事情を説明します。
噺家の技量で、実直な侍の雰囲気が活き活きと語られます。
清兵衛は元の持ち主・卜斎に金を戻そうと訪ねます
すぐに元の売主に返すよう命じられた清兵衛は驚き、急ぎ卜斎を訪ね事情を説明します。
律儀一徹の卜斎は、これは既に手放したものと受け取りを拒否。
しつこく受け取るよう迫ると、手討ちにされかねない風向きになり、その場から退散します。
長屋の大家に相談し、50両を三つに分けるよう知恵を授かります。
佐太夫と卜斎に20両ずつ、10両を清兵衛に分けるよう提案します。
提案を拒絶する卜斎ですが・・・・・
この申し出に佐太夫は承知します。
ところが、卜斎はかたくなに拒絶します。
大家が間に入り、金と引き換えに何か品物を贈ればあなたも気がすむでしょう、と説得します。
日ごろ愛用している古い茶碗を引き換えに渡します。
なんと!この茶碗は「井戸の茶碗」という名品
あろうことか、この茶碗が細川候の目にとまりました。
「井戸の茶碗」といって、朝鮮半島から渡ってきた高麗茶碗であるとのこと。
「たいへん有名なもの」だと、佐太夫から300両でお買い上げになられました。
佐太夫は半分の150両を卜斎に届けさせます
卜斎は佐太夫の誠実さに打たれます。
佐太夫は未だ独身であることを知り、150両を支度金として受け取るので、娘を嫁にもらってくれと申し入れます。
佐太夫は申し入れを承知します。
登場人物はみんな善人
人情味たっぷりの江戸の町で繰り広げられる、ほっこりする噺ですね。
人を思いやる心、モノを大切にする生活、現代が失くしてしまったものが江戸時代にはあったのでしょうね。
卜斎の申し出を承知した佐太夫に清兵衛が
「あの娘をご新造にして磨いてごらんなさい。いい女になりますよ!」
「いや~磨くのはよそう、また小判がでるといけないから」