大家と言えば親も同然、店子(借主)と言えば子も同然
この落語に登場する大家・幸兵衛さんは、おせっかいで心配性、おまけに口うるさい人物。
別名「小言幸兵衛」と呼ばれています。
訪ねてくる入居希望者に、心配性が高じて一方的な妄想話で怒らせてしまうという、長屋噺です。
落語に登場する江戸時代の大家さんは、現代でいう賃貸集合住宅の管理人といったところでしょうか。
家主から管理を任され、店子たちが形成するコミュニティの監督役でもあります。
落語では人の良い人物ばかりのようですが、別の演目「大工調べ」での大家さんは、家賃を滞納した与太郎の大工道具を差し押さえてしまうような剛腕な人物です。
江戸時代の大家は、町役人として行政の一役を担っていました。
長屋への入居希望者が訪ねてきても、職業、年齢、家族構成までチェックし、町名主に届け、名主が人別帳に記載の上奉行所に届けるシステムとなっていました。
小言幸兵衛の聞きどころ
毎朝、長屋を一回りして小言を言って一日を始めないと気が済まない大家さん。
入居希望者がきても、親切心と心配性の度が過ぎてしまいます。
部屋を借りたいと訪ねてくる相手に、職業や家族構成を根掘り葉掘り聞く幸兵衛さん。
若い豆腐屋へ子供は宝と説教
言葉遣いが悪いと説教してしまいます。
嫁をもらって長くなるが子供はないと言う豆腐屋に、子供ができない嫁なら離婚してしまえ、俺が新しい嫁を世話してやる、と余計なおせっかいで怒らせてしまいます。
礼儀正しい仕立て屋へ芝居仕立てで妄想話
機嫌が良くなった幸兵衛さんでしたが、一人息子が独身の上美男子で腕のいい職人だと聞き、町内に住む一人娘との恋愛沙汰を妄想してしまいます。
呆れた入居希望者は逃げるように帰ってしまいます。
やけに威勢のいい男にさすがの大家もタジタジ
その勢いに押されながらも、職業を訊ねると「鉄砲鍛冶屋」だとの返事。
これが噺のオチにつながります。
江戸時代の大家さんは、長屋の住人が不祥事をおこせば連帯責任を問われたようです。
そんなこともあってか、身辺調査を含め入居者の選別には慎重になったのでしょうね。
人は歳を重ねると、口うるさくなったり心配性になったりするものです。
それを面白おかしく笑いにした噺です。
小言幸兵衛のあらすじ
大家・幸兵衛さんは、いつも小言ばかりいっているので「小言幸兵衛」と呼ばれています。
若い豆腐屋が家を借りたいと訪ねてきます。
乱暴な言葉づかいを注意されながら、大家さんの身辺調査に答えていきます。
豆腐屋:「嫁をもらって長くなるが子供はいない」
大家:「そんな女房なら別れてしまえ、俺が代わりに丈夫な嫁を世話してやる」
怒った豆腐屋はのろけまじりの悪態をついて帰ってしまいます。
今度は、言葉づかいが丁寧な仕立屋が家を借りたいと訪ねてきます。
その訪問態度に気を良くしますが、一人息子にまだ嫁がいないと知ると、心配性な大家さんの妄想が始まります。
貸したい家の前には古着屋が住んでおり、年頃の娘がいるとのこと。
大家:「いつしか二人は恋仲になり、一緒になろうと誓い合うだろう。一人娘だからお前の方で息子を養子にやれ。」
仕立屋:「うちも一人息子だから養子にはやれません。」
大家:「それなら二人は一緒になれないので、心中してしまうだろう。」
芝居仕立てで解説する大家に呆れて、仕立屋は帰ってしまいます。
入れ替わり訪ねてきた男は、えらく高飛車で威勢がいい。
男:「大家の幸兵衛ってのはてめえか。あのうすぎたねえ家を借りてやる。店賃なんぞ高けえこと云っているとただじゃおかねえぞ!」
大家「おまえさん、家族は?」
男:「ガキとカカアとおふくろだ!」
大家:「なんとも乱暴な人だ!おまえさん商売は?」
男:「鉄砲鍛冶よ!」
大家:「なるほど!どおりでポンポン云い通しだ!」