落語「子ほめ」の主人公はお世辞などとは無縁の憎めない長屋の住人

町人が活躍する噺

おっちょこちょいで喧嘩っ早い江戸っ子八つぁんはなぜか憎めない

毎度落語に登場するのは八つぁん、熊さん、ご隠居さんに大家さん。

 

今回は、どこか憎めない能天気な八つぁんの滑稽話です。

 

私たちの日常では、人間関係は疎かにできないものですね。
お世辞のひとつでも使えないようでは、円滑な人付き合いはできないようです。

 

そこは長屋を舞台にして、日常生活が繰り広げられる落語の世界。
礼儀作法などこ吹く風、学がなくておっちょこちょいでも、分からないことがあればご隠居さんが教えてくれます。

 

「子ほめ」はご隠居と近所の八五郎が繰り広げるほっこり笑える噺です。
寄席を訪ねれば、聞く機会が多い前座話ですよ。

 

落語「子ほめ」の聞きどころ

灘の酒をタダの酒と聞き間違え、ご隠居宅へ押しかけたところから話はスタート。

 

ぞんざいな物言いでタダ酒を飲ませろと迫る初五郎に、「人様の家で酒の一杯でもご馳走になろうってんなら世辞の一つでも言ったらどうだい」とたしなめられます。

 

相手を褒めて気分よくさせれば、お酒のいっぱいぐらいはごちそうになれると、教えられます。

 

「久しぶりに往来で出会った知り合いには、顔の色つやをほめる。
反応がなければ歳を聞くように、年配の人には実の年齢より若く見える、若い人には実の年齢よりしっかりしている、とおだてれば良い。」

 

「友達の家に赤ん坊が生まれたのなら、顔をよく見て人相をほめて親を喜ばせなさい。」
そうすれば酒の一杯でもごちそうになれるから、と褒めるコツを教えてあげます。

 

おっちょこちょいの八五郎はさっそく街に出かけます。
教えられたとおりにやろうとするも、うまくいきません。

 

次に、最近子供が生まれたばかりの竹さんの家に向かいます。

 

 

落語「子ほめ」のあらすじ

長屋のおっちょこちょい男八つぁんがご隠居宅を訪ねます。

 

「こんちは~!タダの酒があると聞いてきたんだが、飲ませろーい!」

 

「あぁ~、八五郎か!なんだ不躾な物言いは!ところで、何だいタダの酒とは。」
「うちにあるのは灘の酒だ。上方に親戚がいてな、毎年蔵出しの時には送ってくれるんだ。」

 

「へえ~、そうかい!あっしはてっきりタダの酒だと思ったよ。わずかな違いだ、飲ませろよ。」

 

「飲ませないとは言わないが、口のきき方があるだろう。人様の家で酒の一杯でもごちそうになろうというのなら世辞の一つでも言ったらどうだ。」

 

八五郎の聞き違いでした。
そこで、ご隠居からタダの酒が飲める秘訣を教えられます。

 

相手に年齢を尋ね、年配の人なら若く見える、若い人なら年齢よりしっかり見える、とおだてて酒をごちそうになれる。

 

赤ん坊の場合は、顔をよくみて人相を褒め親を喜ばせると酒をごちそうになれると、アドバイスします。

 

50近くの人なら「どう見ても厄そこそこ」と言えばいい。

 

赤ん坊なら「これはあなた様のお子さまでございますか。あなたのおじいさまに似てご長命の相でいらっしゃる。栴檀(せんだん)は双葉(ふたば)より芳しく、蛇は寸にしてその気を表すと言います。私も早く、こんなお子さまにあやかりたい」とでも言えばいい。

 

このように教わります。

 

おっちょこちょいの八五郎はさっそく街へ出かけます。
顔見知りの伊勢谷の番頭に出会います。
さっそく声をかけ、教えられたとおりにやろうとしますが、うまくいきません。
逆に「町内の色男」とお世辞を言われ、ご馳走をさせられそうになってしまいます。

 

その場から逃げ出し、今度は赤ん坊が生まれたばかりの仲間の竹さんの家に向かいます。
いざ褒めようとすると台詞をうまく言えません。
ここでもとんちんかんなやりとりになってしまいます。

 

「ちょっとだけ解説」

 どうしてもタダで酒を呑みたい男のお噺でした。

 

言葉の解説

「栴檀は双葉より芳し(せんだんはふたばよりかんばし)」・・・・・大成する人物は幼い頃から人並み外れて優れている、とのたとえ。

 

「蛇は寸にしてその気を表す」・・・・・優れた人物は子供の頃から常人とは違うところがある、とのたとえ。

この噺は、もともと上方落語の演目でした。
3代目三遊亭圓馬によって東京落語に持ち込まれ、前座話のひとつです。
オチは演者によって少しずつ違うようですね。