今回の演目は、手ぶり身ぶりをまじえて演じる仕方噺「こんにゃく問答」の紹介です。
寺の坊主に扮したこんにゃく屋の六兵衛が、旅の修行僧に禅問答をしかけられます。
何も知らない六兵衛と修行僧・託善の禅問答は、まるでパントマイムを見ているようです。
まったくかみ合わない、とんちんかんなやり取りを「こんにゃく問答」と言いますが、落語が生んだ四字熟語のようですね。
音声だけでは伝わりにくい仕方噺の代表作です。
落語「こんにゃく問答」の聞きどころ見どころ
舞台は上州安中です。
現在の群馬県安中市あたりでしょうか。
中山道の宿場町として栄えていた、今も昔もこんにゃくの産地で知られています。
元はやくざ者の六兵衛が、今は堅気となってこんにゃく屋を営んでいます。
そんな六兵衛を頼って、江戸で食い詰めた八五郎が転がり込んできます。
何もしないで遊んでばかりの八五郎を、近所にある禅寺が無住であることに目をつけ住職にしてしまいます。
いい加減な住職が誕生します。
落語ならではの噺の展開になります。
朝から寺男と二人で酒盛りをしているところへ、旅の修行僧・託善が禅問答を挑もうと訪ねてきます。
事情を知った六兵衛が知恵を絞ります。
自分が大和尚になりすまし、相手が諦めて帰るまで無言で通せばよかろうと考えつきます。
翌日、にわか大和尚と修行僧・託善の問答が始まります。
無言のにわか大和尚に対し、学のある託善は無言の行の最中だと思い込み、手ぶりで問答に挑みます。
にわか大和尚の六兵衛も手ぶりで応えます。
互いの想いはまったく違うのですが、託善は六兵衛の手ぶりが禅の教えを示すものだと勘違いをし、早々にその場から退散してしまいます。
六兵衛は六兵衛で、自分が作っているこんにゃくにケチをつけられたと憤慨してしまいます。
落語「こんやく問答」のあらすじ
六兵衛を頼って江戸からやってきた八五郎は根っからの怠け者。
六兵衛に説得され、村の空き寺の住職に収まったものの、朝から酒盛り。
ある日、永平寺の託善という修行僧が禅問答を申し込んできます。
寺男から問答に負けると寺から追い出されると教えられ、夜逃げ支度を始める始末。
そこへやってきた六兵衛が事情を知り、自分が問答を引き受けると告げます。
翌日訪ねてきた修行僧が中に入ると、和尚に成りすました六兵衛が待ち構えています。
計画通り、修行僧の問いに対し無言で押し通そうとする六兵衛。
無言の行の最中だと判断した修行僧は、手ぶりで問答を挑み始めます。
何を思ったか六兵衛も手ぶりで答えます。
修行僧が両手の指を合わせて小さな円を作ると、六兵衛は腕で大きな輪を作ってみせます。
今度は修行僧が10本の指を突き出すと、六兵衛は片手で5本の指を突き出します。
最後に修行僧が3本の指を見せると、六兵衛は人差し指を目の下におきます。
すると修行僧はあわててその場から立ち去りました。
逃げようとする修行僧に八五郎が事情を聞くと、
「途中から無言の行と気づき、無言でお訊ねしました」
「和尚の胸中は」と問えば「大海の如し」
「十法世界は」と問えば「五戒で保つ」
最後に「三尊の弥陀は」と問うたところ「眼の下にあり」とのこと。
「とても拙僧の及ぶ相手ではありません」とのこと。
一方の六兵衛は激怒しています。
「あの坊主はふざけた奴だ、俺のことこんにゃく屋だと気付きやがった」
「おまえの所のこんにゃくは小さいだろうとバカにしやがるんで、こんなに大きいぞと返してやっ た」
「野郎、今度は10丁でいくらだと聞くから、500文だと答えてやった」
「300文にまけろ、とぬかしやがったんで“あかんべぇ“をしてやった」
(演じる落語家によって、ストーリーや人名が違うことがあります)
さすがに無言でのやりとりは、音声だけではわかりにくいですね。
この場合、手ぶりだけのやりとりの間に、解説が入るとわかりやすくなります。
落語と仏教
「こんにゃく問答」では、修行僧・託善が本堂に入る場面など、その解説は難解な説明文を読んでいるようです。
この場面を説明する落語家は、立て板に水のごとく話し聞かせます。
お寺独特の表現もあり、その内容については多くの解説が必要になります。
ここでは省きますね。
禅寺の石碑には「不許葷酒入山門」(くんしゅさんもんにいるをゆるさず)と刻まれています。
匂いのきついものを食べて、酒を呑むような者は寺に入ってはならない、との教えのようです。
そもそも落語の始まりは、それぞれの地域のお坊さんが住民に聞かせた法話だそうです。
落語とは無縁ではなかったようですね。