与太郎さんの処世術はすごい!
落語の世界に登場する人物は、それぞれに
個性が強い人ばかりです。
なかでも与太郎さんは、バカだけれどもなぜか
ほっとけない、愛されて止まないキャラの持ち
主です。
現代の優秀なビジネスパーソンが、束になって
も太刀打ちできないほどの処世術を身に付けて
いるんですよ。
セミナーや勉強会では身に付けることができない
人間性を持っています。
噺は、いつものように江戸時代にタイム
スリップして始まります。
与太郎の親孝行ぶりをお上が知るところと
なって、奉行から報奨金を頂戴しました。
お頭が弱い与太郎に渡してしまうと全部使って
しまうに違いない!
そこで大家さんが長屋の住人に、与太郎の身が
立つように小商いでもさせようと相談します。
周りの人たちは、ついつい与太郎の世話を
焼いてしまうのです。
孝行糖の聞きどころ
儒教の精神が色濃い江戸時代、親孝行が推奨
されていたのですね。
それに周りの人たちは、面倒見が良く互いに
寛容だったのでしょうか。
与太郎は、大家さんや長屋の住人たちに
言われるままに、飴売りの商売を始めます。
商品名は「孝行糖」。
周りの人たちが、派手な衣装、鉦(かね)と
太鼓までそろえてくれます。
売り言葉、お囃子も丸暗記させます。
派手に陽気に売り歩き、評判となり売れ行き好調です。
与太郎も商売がおもしろくなり、雨の日も、風の日も、
相変わらず売り歩きます。
落語「孝行糖」のあらすじ
親孝行の与太郎が奉行から報奨金を頂戴しました。
少しお頭が弱い与太郎に、そのまま持たせて
おくと全部使ってしまうだろう。
報奨金を元手に、小商いでもさせて自立させ
ようと大家と長屋の衆が相談をします。
むかし人気役者の「嵐璃寛」と「中村芝翫」
の顔合わせ共演が評判になった際、それを
当て込んで「璃寛糖」、「芝翫糖」と名付けた
飴を売り流行らせた人がいる。
それを真似て飴売りをやらせようと相談がまとまります。
親孝行で報奨金をいただいたのだから、飴の
名前は「孝行糖」が良かろうとなります。
売り文句は、そっくり使わせていただこうということになりました。
鉦と太鼓を前につるして囃しながら
「チャンチキチ~、スケテンテン!」
「孝行糖、孝行糖~」
「孝行糖の本来は、粳(うるち)の小米に寒ざらし、榧(かや)~に銀杏、肉桂(にっき~)に丁子(ちょう~じ)」
「チャンチキチ~、スケテンテン!」
「昔(むか~し)昔唐土(もろこし)の、二十四孝(にじゅうしこう)のその中で、ほら老莱子(ろうらいし)といえる人、親を大事にしようとて、ほら、こしらえあげたる孝行糖、食べてみな、ほらおいしいよ、また売れたったら、うれしいねっ」と教え込みます。
この派手な衣装と賑やかな囃しで売り歩き、
飴を買って子供に食べさせると親孝行になる
との噂も加わって、町の評判になります。
がぜんやる気がでた与太郎、
雨の日も風の日も「チャンチキチ~、スケテンテン!」。
いつものように鉦と太鼓を囃しながら、市中で
もっともうるさい水戸様の屋敷前を通りかかります。
少しでも門前でぐずぐずしていると、門番に六尺棒で追い払われるほどです。
そんなことにはお構いなしで、
「孝行糖、孝行糖~、孝行糖の本来は・・・・・」とやってしまいます。
「通れ!行け!」と門番が怒ります。
「チャンチキチ~」
「門前じゃによって鳴り物はあいならん」
「スケテンテン!」
門番の怒声とお囃子売り声の掛け合いになってしまいます。
門番に六尺棒でこっぴどく打たれてしまいます。
通りがかった人に助けられます。
「痛えや、痛えや!」
「どこをぶたれた?」
「こぉこぉと~(孝行糖)、こぉこぉと~」
ちょっとだけ解説
元は上方落語であり、明治期に三遊亭圓馬に
よって持ち込まれ、東京でも演じられるようになった噺です。
東京では、与太郎が主人公になりお馴染みのキャラクターで登場します。
与太郎噺として有名ですが、
オチが与太郎らしく人を食ったようでおもしろいですね。