「さんまは目黒に限る」のオチで知られ、毎年恒例になっていた目黒のさんま祭りですが、新型コロナ感染防止のため2年連続で中止となっていました。
2022年は3年ぶりに抽選制で開かれ、選ばれた1,000人にさんまが提供されています。
この記事では、喧嘩っぱやい江戸っ子ではなく、武士が主役の噺「目黒のさんま」を紹介します。
庶民の暮らしとは無縁の社会で生きる、世間を知らない武士のこっけいな噺です。
「目黒のさんま」聞きどころ
庶民の暮らしとは無縁の世間知らずなお殿様を揶揄した、こっけいな噺です。
演者によって少し違いがありますが、殿様が目黒まで遠乗り(それとも鷹狩り?)に出かけます。
急に出かけることになったのでしょうか、お供の家来が弁当を忘れてしまいました。
空腹であった殿様が、何やらおいしそうな匂いに気づきます。
家来にたずねると、庶民が食べる魚で「さんま」であると教えられます。
空腹もあって殿様は強引にさんまを用意させます。
さんまを焼いていた農家から分けてもらい、殿様に差し出します。
脂がのった「さんま」を食べた殿様は、たいそう気に入ってしまいます。
それからというもの、さんまの味が忘れられません。
ある時、親族が集まる宴席で「さんま」を所望します。
料理番は日本橋の魚河岸でさんまを購入しました。
殿様の健康を考え、脂を抜き、小骨も1本1本丁寧に抜きました。
あの熱々の焦げたままの「さんま」ではなく、つみれに変身し高級なお椀の中に入れられ差し出されました。
姿かたちが違い、初めて食べた「さんま」とは味もまったく違いました。
がっかりした殿様が家来に「これはどこのさんまだ?」と訊ね、オチにつながります。
「目黒のさんま」あらすじ
目黒での「さんま」との出会い
殿様:「良い天気であるな。どうじゃ遊山などに参ろうかの」
家来:「ははっ!武芸鍛錬のために遠乗りなどけっこうかと存じます」
殿様:「久しくせんが遠乗りか。どのあたりまで行けばよいか」
家来:「下屋敷から遠くない目黒などいかがでしょう」
殿様:「目黒か、しばらく行っていないが、あい分かった。遠乗りをいたすといたそう」
殿様:「では、用意いたせ!余に続け!」
お殿様は家来も連れず一人で飛び出して行きます。
遅れて家来たちも慌てて続きます。
いつも馬に乗っているはずもない殿様、途中尻が痛くなって飛び降りてしまいます。
遅れて飛び出した家来たちが追いつきました。
殿様:「空腹を覚えた!弁当をもってまいれ」
家来:「恐れながら申し上げます。あまりにも火急であったため、弁当を持参した者はおりません。殿様:「弁当がない。さようか、さようであるか」
そんな時、近所の農家でさんまを焼いております。
その匂いが殿様にもわかってしまいます。
殿様:「これ、この異なる匂いはなんじゃ?」
家来:「はっ、これはさんまででございます」
殿様:「さんまとはなんじゃ?」
家来:「はっ、魚でございます」
殿様:「魚か、では食うてみるか」
家来:「はっ、あれは下なる魚にて、高貴な方の口にはあいません」
殿様:「武士が好き嫌いをいって戦ができるか!さんまとやらをこちらへ」
どうしようもありませんから、家来は農家を訪ねます。
快く焼けて分けてくれた農民に、駄賃を小判で渡し喜ばれます。
縁の欠けた皿に、細長くて真っ黒に焼けたさんまが5,6本差し出されました。
ジュウジュウと脂がまだ燃えています。
不安ながらも、抑えきれない食欲で食べると、おいしさに驚きます。
機嫌よくお屋敷に戻ったお殿さまですが、さんまのことを忘れられません。
さんまは目黒に限る
家来から、目黒での出来事は口止めされていましたが、家来はひやひやしています。
しばらく時が経って、お殿様が親類の宴席に招かれます。
招待された時は料理の注文ができたそうです。
この時を待っていたお殿様は、料理番を見つけ「余は、今日さんまを食したい」と伝え
ます。
台所にはさんまの用意がありません、当然のことです。
急ぎ、日本橋の魚河岸へ向かい、選りすぐって良いさんまを準備しました。
料理番は、雑に焼いて食べるのが美味しいとは知っています。
とはいえ、殿様への料理としては雑なものは出せません。
脂と骨を取り除いて、上品なお椀物にして出しました。
目黒でのさんまとは全く違います。
殿様:「これっ!これはどこで仕入れた?」
料理番:「はっ、日本橋魚河岸でございます」
殿様:「それはいかん!さんまは目黒に限る!」