落語「抜け雀」は、知恩院の襖絵から飛び去った雀伝説が元話?

rakugo-nukesuzume 名人が主役の噺

落語では個性豊かな登場人物が、現実にはあり得ない騒動を引き起こします。
独特の世界が落語では成り立っているのです。

 

今回紹介する古典落語「抜け雀」は、毎度おなじみの熊さん、八っつあん、与太郎ではなく名人が登場します。
名もない絵師が登場しますが、実はとんでもない能力の持ち主だったのです。

 

それを上回る能力を持つ父親も登場します。
滑稽話の大ネタですが、どこかほっこりするダジャレオチの噺です。

 

「抜け雀」の聞きどころ

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現実にはあり得ないストーリーが展開していく落語の世界です。

ところで、人の良い人物は商売に向いていないようです。
登場する宿屋の主人も同様の人物で、金を持ってなさそうな客を呼び込んでしまいます。
毎日、出かけるわけでもなく朝から何もせず長逗留している客です。

 

ある時、内金だけでも払ってくれと頼みますが案の定一文無し。
宿賃の代わりにと衝立に5羽の雀を描き上げ、誰にも売るなよと言い残し旅立っていきます。

 

なんと、この絵の雀が毎朝衝立から抜け出し羽ばたくのです。
このことが評判となり、雀のお宿として大繫盛するようになります。

 

「抜け雀」のあらすじ

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噺の舞台は小田原です。
夫婦で切り盛りしている小さな旅籠。
人の良い主人は、通りかかった薄汚い身なりの、他の客引きなら見向きもしないだろう30歳手前ぐらいの男に声をかけます。

 

「ぜひ、私どものところへお泊りを!」
「これも何かの縁、しばらく滞在したい、金の50両ほども先に預けておこうか」
「お勘定はお発ちの時でけっこうでございます。」
景気のいい話しに、主人は気を良くして部屋へと案内します。

 

この男、何もせず一日中ゴロゴロしているだけ

こんな調子が七日も続くと、宿の女房がだまっていない。
「この男、怪しいから酒代だけでもいいから5両ほどもらっといで」

 

がっかりする主人・・・・・

宿の気弱な主人が「せめて内金5両だけでも入れてほしい」と切り出します。

「金はない!」「金が入るあてもない、抵当(カタ)もない!」と悪びれた様子もありあせん。
あきれ果てた主人が「あなたの商売は何です?」

 

わしは絵師じゃ!

「そうだ絵を描いてやろう」借金のカタに絵を描くと言い放ちます。

まだ新しい衝立に目をやり、「あれに絵を描いてやろう」と嫌がる主人を尻目に一気に描き上げてしまいます。

 

これは雀だ!五羽いる、一羽一両で五両だ!

「これは宿賃の抵当(カタ)に置いていく。帰りに寄って金を払うまで売ってはならんぞ!」と言い放ち出発してしまいます。

あぜんとする主人。

 

翌朝、主人が2階へ上がり雨戸を開けると・・・・・

翌朝、機嫌を悪くした女房は起きてくれません。

やむなく主人が2階に上がり雨戸を開けると、朝日に照らされ雀が鳴きながら外へ飛び出していきます。
変だと思いながら衝立を見ると、描かれているはずの雀の姿がなく真っ白。
すると、今度は雀が戻ってきて衝立の中に納まってしまいました。

 

小田原宿中で雀のお宿が評判に・・・・・

主人の話しを信じなかった女房が、次の日雨戸を開けて納得します。
このことが小田原中で評判となり、雀のお宿として大盛況となります。

ついには小田原城・大久保加賀守が千両で買いたいと現れます。
絵師との約束もあり売るにも売れません。

 

数日後、たいそう品のある老人が訪ねてきます

衝立の前に座った老人は「未熟だな。この雀、止まり木が書いてないからやがて疲れて死ぬ。」と主人に伝えます。
嫌がる主人に硯をもってこさせ、鳥かごを描きたしました。

今度は雀がもどってくると、鳥かごに入り止まり木にとまりました。
益々評判となり、大久保加賀守が二千両で買うとの仰せ。
主人は律儀にも、絵師が戻ってくるまでは売れないと言い張ります。

 

あの時の絵師が戻ってきました

老人が来て鳥かごを描きたしたことを話すと、さっそく二階に上がり衝立の前にひれ伏してしまいました。
「ご無沙汰しています。親不孝の段、お許しください。」

 

主人が聞いてみると、あおの老人は絵師の父親だとのこと。
「あぁ~、俺は親不孝をした!」
「どうして?」
「衝立を見ろ、親を籠かきにした。」

 

この噺のオチはだじゃれオチです。

 

ちょっとだけ解説

 

知恩院の菊の間には狩野信政が描いた襖絵があります。
菊の上を飛ぶ数羽の飛ぶ雀が描かれていたと言われていますが、雀の姿はありません。
あまりにも見事に描いたので、雀が生命を受けて飛び去ったという伝説があります。

 

この噺の元だったのかも!