落語「たらちね」は、長屋で一人暮らしの八五郎に不釣り合いの嫁がくる滑稽話!

町人が活躍する噺

落語「たらちね」の楽しみ方~思わず笑ってしまう不思議な魅力~

今回紹介する古典落語「たらちね」は前座話とも言われ、寄席でも聞く機会が多い演目です。
上方落語では「延陽伯(えんようはく)」と演目名が変わります。

 

舞台は落語でおなじみの長屋、登場人物はその冴えない独り暮らしの八五郎。
時代は江戸時代末期?

長屋にもいくつかの種類があって、他には6畳に土間がついた9尺2間半、二間続き、2階建て、とあったようです。

 

家賃を滞納するくらいの八五郎ですから、一番小さい4.5畳に土間がついた9尺2間の長屋だったのでしょうか。

 

長屋の独り者八五郎のところに、大家が縁談話をもってきます。

 

相手の娘は、年は二十歳で器量良し、夏冬の物は持参するという、願ったり叶ったりの縁談話。

 

由緒ある武家に生まれた新妻、しがない長屋暮らしの八五郎が旦那、という設定で新婚初日から珍騒動が巻き起こります。

 

 

落語「たらちね」の聞きどころ

八五郎にとっては、あまりにも好条件の縁談話です。

 

不審に思った八五郎は大家さんに問いただすと、娘さんにはやはり難点がありました。

 

武家奉公と厳格な父親に育てられたおかげで、馬鹿丁寧で難しい言葉を使うので何が何だか分からなくなる、との説明。

 

「なんだそんなことか」と一笑に付した八五郎は、喜んで嫁にもらうことにしました。

 

言葉の使い方がぞんざいな八五郎と、難しい言葉を丁寧に使う新妻とのミスマッチが笑いを誘うネタになっています。

 

「釣り合わぬは不縁の元」と言いますが、そこは落語の世界。

不釣り合いの心配などどこへやら、ただただ言葉のやりとりの面白さを楽しめる滑稽話になっています。

 

 

たらちねのあらすじ

大家の世話で八五郎のところへ嫁を連れてきたまではよかったが、嫁の名前も教えずに早々に帰ってしまいました。

 

挨拶をする八五郎に嫁は、「賤妾浅短(せんしょうせんだん)にあって是れ学ばざれば勤たらんと欲す」との返事で訳がわからない。

 

名前を尋ねると、「自らことの姓名は、父はもと京都の産にして姓は安藤、名は慶三あざなを五光。母は千代女と申せしが、わが母三十三歳の折、ある夜丹頂の鶴の夢を見てはらめるが故に、たらちねの胎内を出でしときは鶴女と申せしがそれは幼名、成長の後これを改め清女と申しはべるなりい~」、とこれまたわからない。
八五郎は長い名前だと理解します。

 

翌朝、夫より早起きして朝食の支度をする新妻。
米がどこにあるかわからないので、寝ている八五郎に尋ねます。

 

「あ~らわが君、あ~らわが君」と呼びかけます。
びっくりする八五郎は、「あ~らわが君」をやめるようお願いする始末。

 

続けて「しらげのありかはいずこなりや?」、何のことか戸惑う八五郎ですが、よくよく聞くと米櫃の場所を聞いているとわかり一安心。

 

そこへ岩槻ねぎ売りがやってきます。

 

「こ~れ、門前に市をなす男(おのこ)、一文字草を朝げのため買い求めるゆえ、門の敷居に控えておじゃれ」で、思わずねぎ売りも平伏してしまいます。

 

やっと味噌汁もできあがり食事です。
新妻が八五郎の枕元で、「あ~ら、わが君。日も東天に出御ましまさば、うがい手水に身を清め、神前仏前へ燈灯(みあかし)を備え、早く召し上がって然るべく存じたてまつる、恐惶謹言」と声をかけます。

 

八五郎が「飯を食うのが『恐惶謹言』、酒なら『依って(=酔って)件の如しか』と、オチになります。

 

 

言葉の解説

たらちね

「たらちね」とは、漢字で「垂乳根」と記述されます。
母親、または父親のことを意味する語句で、親にかかる枕詞。

 

賤妾浅短にあって是れ学ばざれば勤たらんと欲す

賤妾(せんしょう)とは、夫に対して妻が自分を謙遜して使う言葉。
浅短(せんたんとちは、浅はかで不十分の意。
ふつつかで無学ではありますが、勤勉にお仕えいたします、の意。

 

一文字草

ひともじぐさ、長ネギのこと。

 

恐惶謹言

きょうこうきんげん、文書や手紙の末尾に付ける挨拶語。

 

依って件の如し

よってくだんのごとし、証文などの末尾に付く言葉。
オチになっていて「酔って」と掛けている。