この記事では、人間国宝であった桂米朝さんが掘り起こした上方噺「天狗刺し」を取り上げます。
奇想天外な着想で作られた噺になっています。
主役(男)のキャラクターが強烈な印象を残します。
江戸落語に登場する与太郎さんを、はるかにしのぐアホに仕立てられています。
上方落語版与太郎噺といったところでしょうか。
この噺でのサゲについては、少し解説が必要なようです。
今では演じる噺家により改編され、わかりやすいオチになっています。
落語「天狗刺し」のあらすじ
この演目は、2021年NHK新人落語大賞で見事優勝した「桂二葉」さんが本選で演じたことでも知られています。
「天狗刺し」は桂米朝さんが復活させたものですが、孫弟子が演じ大賞を手にした一門にはゆかりが深い演目です。
とんでもない商売を思いついた男
甚兵衛さん宅へ男が金儲けのアイディアをもって訪ねます。
この男、普段から誰もが思いつかない相談を持ち込んできます。
甚兵衛さん、いつも呆れて話を聞き流しています。
今回は、天スキ屋を始めると言い出しました。
「天スキて何やねん?」
「天狗のスキヤキでんねん!」
「そのテングて何やねん?」
「あんた天狗知りまへんか?よぉ絵に描いてある!」
「鼻の高~い、手に葉うちわを持った?」
「いや、あれは大天狗っちゅうてね、くちばしが鳥みたいなカラス天狗を捕まえてきてスキヤキにしまんねん!」
その天狗どこで仕入れる?
カラス天狗を捕まえてきてスキヤキにすれば、珍しいので流行るだろうとの考えです。
「流行るやろうけど、その天狗っちゅうもん、どこで仕入れるねん?」
「それをあんたに相談に来た!」
「アホか、おまえ!知らんで、わしゃそんなもん!」
天狗といえば京都の鞍馬山が有名やな~
甚兵衛さんから「天狗の言い伝えは聞いたことはあるが、京都の鞍馬山が有名やな~」と聞いた男。さっそく太い青竹とトリモチをたくさん用意します。
道を聞きながら鞍馬山へ登っていきます。
夜中になると天狗が羽を休めに奥の院の大杉に降りてくるらしい、と教えられます。
奥の院に着いた時にはもう真っ暗。疲れた足を休めるため、杉にもたれていると寝込んでしまいます。
奥の院で夜中の行を終えたお坊さんに災難が
深夜の行を終えたお坊さんが扉を開けて出てきます。男は扉が開く音で目を覚まします。
男には、階段を下りてくるお坊さんの赤い衣が、赤い羽の天狗に見えたのです。
竹で足を払い、さるぐつわをかませ縄でしばり青竹を通して山を下っていきます。
町へ出た頃には夜も明けています。
早起きの人たちが、宙づりにされたお坊さんを見てびっくり。
サゲが難しい
京の町の人に何ごとかと聞かれた男は、「知りたかったら、5、6日したら大阪へ来い!」などと訳の分からないことを言って通り過ぎていきます。
男が歩いていると、向こうから青竹を10本ほど担いだ人がやってきます。
もう商売仇が現れたと思い込んでしまい、呼びとめます。
「お前も鞍馬の天狗刺しか?」
「いや、わしは五条の念仏尺(ざし)じゃ!」
これは、桂米朝さんの噺でのサゲです。
念仏尺(さし)については、京都の西本願寺大谷本廟あたりで、朝夕念仏が聞こえる竹やぶで成長した竹で作った物差し、と言われているとか。
演じる落語家によってそれぞれのサゲに工夫されています
桂二葉さんの噺では、担いできた天狗がお坊さんだとわかり、
「スキヤキ諦めて天ぷらにしようか!」
「なんでワシが天ぷらにならなアカンねん?」
「そやかて、あんたハナからコロモつけてまんがな!」
笑福亭智丸さんは、
「それはお坊さんやないかいな!」
「何をいうてまんねん、どこがお坊さんや?」
「えっ、ほんま、お坊さんや!」
「はよ、助けたらかいな!」
「わしを誰やと思うてる、わしは京都一の名僧、日本一の名僧やぞ!」
「喜六、おまえ間違ごうてへんわ!そやかて天狗になってる!」