落語「時そば」は寒い冬の季節にピッタリの演目

町人が活躍する噺

「時そば」は落語好きでなくても一度は聴いたことのある噺

数多い古典落語の中でももっともスタンダードな噺です。
与太郎噺ですね。
話しの中での時刻が「九つ」、「四つ」、そばの代金が16文、江戸時代ならではの話しになっています。

 

もう街中で見かけることはありませんが、移動式の屋台。
噺の中の屋台は移動式と言っても、天秤棒で担いで移動し商う二八そば。

 

そば1杯が16文。
16文のそばを「にはち16」に掛けて「二八そば」と呼んだとされています。

 

物価統制で16文と決められていた時代から、慶應年間の物価上昇により20文を超える時代がやってきました。
その頃になると、そば粉8割、小麦粉2割のそばのことを言い、割合を示す名称となったとされています。

 

どちらの説が正しいのでしょうか。

 

江戸時代は外食産業が盛んだった、とも言われています。
そば屋以外にも、天ぷら、すし屋、煮しめ屋、団子屋など屋台が市中に出回っていたそうですよ。

 

 

落語「時そば」の聞きどころ

そば代16文の1文を鮮やかな手口でごまかしてしまう客の様子を見ていた男。

 

その客が上手に1文ごまかしたことに気づくと、自分もやってみたくなります。

 

そっくりそのままやってみようと、翌日早い時間に出かけ挑戦しますが、失敗してしまう滑稽な話。
落語ネタでは庶民の日常が描かれ、ちょっとしたことの可笑しさが聞く人の心を癒します。

 

最初の客が1文をごまかし、真似をしようと勇んだ男が損をしてしまう。
世間でもありそうな、要領が良い人と悪い人との違いを、面白おかしく聞かせてくれているような気がしないでもないですよね。

 

もちろん、落語家が扇子を箸に見立ててそばを上手にすする、芸の面白さも堪能できます。

 

 

時そばのあらすじ

深夜、小腹が空いた男が屋台の二八そば屋を呼び止めます。
しっぽく(ちくわ)そばを注文します。

この男、口も滑らかに看板をほめ、箸、器、だし、そばまでをほめまくります。

 

さて代金を払うところで、「あいにく細かい銭しかもってねぇ。落としちゃいけないから、手だしてくれ」と言って、店主の手のひらにテンポよく1文銭を数えながら載せていきます。

 

「一(ひい)、二(ふう)、三(みい)、四(よう)、五(いつ)、六(むう)、七(なな)、八(やあ)」と数えたところで、「今何時(なんどき)だ?」と時刻を尋ねます。

店主が「九(ここの)つです」と応えると間髪入れずに「十(とう)、十一、十二、十三、十四、十五、十六、ごちそうさん」と言いすぐさま立ち去ってしまいます。

 

この様子を一部始終見ていた、少しボーッとした男が登場します。
1文ごまかしたことに気づくと、自分も真似てみようと思いつきます。

 

小銭を用意して、早い時刻から勇んでそば屋を呼び止めます。

 

昨夜のとおりやってみるのですが、どうも上手くいきません。
箸は誰かが使ったもの、器は欠け、汁は辛過ぎ、そばは伸び切り、ちくわは紛い物の麩。

 

とにかく昨夜のように代金を払おうと、八つまで数えて「今何時だい」と聞くとそば屋が「へえ、四つで」。
「五つ、六つ・・・・・」とまずいそばを食べさせられ、おまけに損をしてしまいます。

 

 

江戸時代の時刻の呼び方だから成り立つ落語

そばを食べたのは何時だったのでしょう。
九つ、という時刻は今なら午前0時頃です。

 

ボーッとした間抜けな男が食べた時刻は、四つというから午後10時頃になります。

 

時の呼び方は、日の出前の「明け六つ」に始まり、朝五つ、朝四つ、昼九つ、昼八つ、七つ、日の入り後の暮れ六つ、宵五つ、夜四つ、夜九つ、夜八つ、暁七つ、と一巡します。

 

だから夜九つより早く出ると夜四つとなり、話が成立するわけですね。

 

この当時には、すでに外食産業があったのですね。