落語「厩火事(うまやかじ)」は夫婦間の機微を描いた味のある噺

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落語「厩火事(うまやかじ)」は夫婦間の機微を描いた味のある噺

この落語は古くから演じられている古典落語の名作といっていいでしょう。
馬小屋の火事で馬の心配より家来の身を案じたという、孔子のエピソードを織り込んで出来上がった噺です。

 

登場人物は、毎度落語に出てくるだらしない亭主と、しっかりもの女房、それを見守る仲人のご隠居さんです。

だらしない年下の亭主に毎度腹をたてながらも、どこか亭主を大事に思う髪結いの女房。
そんな喧嘩が絶えない夫婦の微笑ましい姿が、聴く人をほっこりさせる噺です。

 

 

落語「厩火事」の聴きどころ

この演目は江戸時代から高座にかけられていた、といわれる古い噺です。

 

登場する髪結いのおさきさんは、現代ならばヘアサロンの人気美容師さんといったところでしょう。
江戸時代の女性向け髪結いは結構な高収入となったそうです。
そんな女房の稼ぎをあてにして、昼間からゴロゴロしているような男は「髪結いの亭主」と呼ばれていました。

 

腕利きの髪結い年上女房とぐうたら亭主の間で繰り広げられる、何とも微笑ましい夫婦間の機微が伝わってくる古典落語です。

 

間を取り持った仲人は、夫婦喧嘩の度にぐうたら亭主のグチを聞かされます。
グチばかりかと思っていると、惚気(のろけ)話しが飛び出したりします。
年上女房の惚れた弱みが垣間見える、ほのぼのとした会話が展開されます。

 

仲人が亭主の本心を探るための策を教えます。
その策を、ハラハラドキドキしながら実行してしまう年上女房の様子が、面白おかしく噺家によって演じられます。

 

 

落語「厩火事」のあらすじ

おさきさんは腕の良い髪結いで、年下の亭主と暮らしています。
この亭主、女房の稼ぎをいいことに毎日昼間から酒ばかり呑んでいるぐーたら亭主です。
ささいなことで喧嘩ばかりしている夫婦です。

 

おさきさん今日こそ別れてやると、仲人の家を訪れます!

「今度ばかりは愛想がつきたので別れたい!」とおさきさん、仲人さんに夫婦喧嘩のいきさつを話し始めます。

 

毎度のことで仲人さんもあきれ顔。
「まあ~よく喧嘩ばかりするもんだね~」
「女房の稼ぎをあてに昼間から酒ばかり呑んでいるような男なら、別れなさい、別れなさい!」

 

仲人さんはいつものように愚痴を聞いてくれるだけだと思っていたのに~

おさきさん、仲人の「別れなさい、別れなさい!」の返答に驚いてしまいます。

 

年下亭主に未練たっぷりなおさきさん。
「あれでなかなか良いところもあるんですよ」などと亭主をかばいはじめます。
惚気(のろけ)まで飛び出す始末。

 

それじゃ亭主の本心を知るしかないな~

仲人さんはおさきさんに二つの逸話を語り始めます。

 

一つは唐(もろこし)の孔子の話し

偉い先生である孔子が外出中に馬小屋(厩)が焼けてしまいました。
一番大事にしていた白馬が焼死してしまいました。
帰ってきた孔子は、家来や家人の無事を喜び馬のことには触れませんでした。

 

二つ目は、陶芸品に凝っている「麹町のさる旦那」の話し

皿を収めようとしていた奥様が階段で転んでしまいました。
「皿は大丈夫か、皿は大丈夫か?」と自慢の陶芸品の心配ばかりです。
奥様の身を案じるどころか、皿ばかりの心配をするような薄情な旦那です。
結局離縁となってしまいました。

 

おさきさんは、ぐーたら亭主の本心を試します

仲人さんはぐーたら亭主も陶芸品に夢中だと知り、試してみるよう勧めます。

 

「亭主が一番大事にしている陶芸品を落として割ってみろ!」
「おさきさんの身体を少しでも心配したならよし!」
「陶芸品のことばかり心配するようでは見込みはない、別れなさい!」

 

もろこし(唐)か?麹町のさる(猿)旦那か?

おさきさん、決心の大芝居に挑みます。

 

ぐーたら亭主が大事にしている茶碗を持ち、わざと転んで茶碗を割ってしまいます。

「おさき!大丈夫か、怪我はないか?」
「うれしいいね~、おまえさんはもろこしだよ!」

 

「そんなにわたしが大事かい?」
「あたりまえだ!」
「おまえに怪我でもされてみなよ、明日から遊んで酒が呑めなくなるじゃないか!」

 

髪結いの亭主にも良いところがあるようで

夫婦100組があれば、100組それぞれの夫婦間の色合いがあるようですね。

 

年下のぐーたら亭主にもやさしい一面があり、年上女房を大事に思っているところを見せてやると円満に過ごせるようです。
夫婦喧嘩にも味がでてくるのでしょうか。

 

今では「髪結いの亭主」との呼び方はなくなってしまったか?