落語「藪入り」は笑えて泣ける、古典落語の名作人情噺です!

rakugo-yabuiri 人情噺

今回は人情噺「藪入り」の紹介です。
登場人物は、3年前に商家へ奉公に出た亀吉と、その父親と母親の3人です。
時代は明治です。

 

3年ぶりに奉公先から帰省する息子・亀吉と、今か今かと首を長くして待つ父親と母親の姿が、話術巧みな落語家によって演じられます。

 

観客は当時の時代背景を想像しながら、笑いあり涙ありの人情噺「藪入り」にほっこりさせられます。

 

「藪入り」の聞きどころ

現在では、藪入りという言葉を聞くことはありませんね。
住み込みの奉公人が、お正月とお盆に実家に帰省できる「藪入り」という休日があったそうです。

 

幼くして商家に奉公に出した我が子が、3年ぶりに休みをもらって戻ってきます。
両親は、子供の成長ぶりを想像しながら帰省してくる日を待っています。

 

父親と母親のやりとりを巧みに、面白おかしく表現する噺家の話術を楽しめます。
親子情愛を演じる噺家の、話芸の聴かせどころでもあります。
涙と笑いのひと時を過ごすことができます。

 

「藪入り」のあらすじ

この噺を聴くには、少しだけ知っておかなくてはいけないことがあります。
この時代、まん延していた「ペスト」の感染経路であるネズミを駆除する必要がありました。
捕獲した者には報奨金が支払われていたそうです。

 

息子・亀吉の父親は藪入りの前日からソワソワ

それもそのはず、奉公に出した一人息子が3年ぶりに帰ってくるのですから。
夜、布団に入っても
「今日は、どうも時が経つのが遅いような気がする」などと言い出します。
明日の朝には一人息子が帰ってくると思うとなかなか寝付けません。

 

目が冴えてきて支離滅裂なことを言い出します

ああしてあげたい、こうしてあげたい、と言って女房を寝かせません。
「暖かい飯を食わせてやれ、納豆を買って海苔を焼いて、汁粉も食わしてやりてえな。刺身に鰻に寿司も食わせて・・・・・」

 

「うるさいんだから、もう寝なさいよ!」

 

「そうだ!湯に行ったら近所を連れて歩きたいな。浅草行って品川で海を見せてやろう、
羽田の穴守さんにお参りして、川崎の大師さんに寄って横浜、横須賀に行って江の島、鎌倉もいいなぁ~。静岡から名古屋のしゃちほこ見せて、伊勢の大神宮にお参りしたい。」
などと地元を飛び出しはるか遠くまで出かける妄想をしてしまう始末。

 

「おっかぁ、おっかぁ~ってうるさいんだから!」

二人とも一睡もできません。
「なぁ~、おっかぁ」と、5時に起き出して、家の周りを掃除し始めました。

 

これには近所の人もいぶかしげに声をかけます。
声をかけられてもうわのそら。

 

ついに一人息子の亀吉が帰ってきました

すっかり商家の奉公人になって帰ってきた亀吉。
緊張のあまり、りっぱな挨拶をする亀吉の姿を見ることができない父親。

 

「おっかぁ、亀のやろう大きくなったろうな」
「あんたの前に座ってるじゃないか、ご覧よ」
「見ようと思っても涙がでてきて見えないんだよ」

 

ぎこちなかった会話もおちついて

「おめえ、朝湯へいってひとっぷろ浴びてこい」
亀吉を朝湯へ送り出しました。

 

「おっかぁ、りっぱになったなあ、挨拶もできるし体も大きくなった」
父親はうれしさでいっぱいです。

 

亀吉が朝湯へ行っている間に

母親が何気に亀吉の財布をみてみると、そこには五円札3枚が小さくたたまれているのを見つけました。
「15円とは子供のお小遣いにしては多すぎる!」と母親は一瞬息子を疑います。
財布を見せられた父親は「野郎、盗みでもしやがったか!」と怒り出してしまいました。

 

亀吉が気持ちよさそうに帰ってくると

「そこに座れ!なんだこの15円は!」
「いつから人の物を盗むような人間になった!」
父親は亀吉を殴ってしまいました。

 

ネズミを捕まえて警察にもって行くとお金が貰えた

「これは去年ペスト流行った時、ネズミを捕まえて警察にもっていくと、お金がもらえた。その上、ネズミの懸賞にあたって15円もらった。」

「今までご主人が預かってくれていた。家に帰るんだから親を喜ばせてやれ、と持たしてくれたんだよ!」

 

「そうか、懸賞に当たってよかったな。すまなかったな~」
「それを預かってくれていたとは、良いご主人だだなぁ」

 

ご主人を大事にしなよ。これも“ちゅう(忠)”のお陰だから。

 

ちょっとだけ解説

ネズミ取りについては、噺に入る前のマクラで説明されます。

 

当時はネズミが多くて、奉公人の小僧さんたちはネズミを捉えると交番へもっていったそうです。
そして役所にいくと2銭のお金をもらえたとのこと。
その他に懸賞があったそうです。
その懸賞金15円が当たったんでしょうね。

 

当時の貨幣価値が分かりにくいのですが、15円は15万円に相当する金額になるようです。
15万円なら、見つけた母親はびっくりしたことでしょうね。